テロメアを短くする原因の1つに、慢性的な心理的ストレスを感じ続けることが挙げられます。
人間は、たとえば子供の面倒や親の介護で毎日忙しかったり、仕事で結果が出ず失敗が多い、長期的ないじめや虐待、家庭内暴力など慢性的なストレスを継続的に感じ続けると、身体が生理学的に常に緊張した状態に置かれてしまい、結果として免疫システムの働きを抑圧し風邪やウイルス性感染症などにかかりやすくなってしまいます。
生理学的には、身体にはストレス反応のシステムがあり、それが警戒態勢になると、コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンが多く分泌され、鼓動が速くなり血圧が増加し、ストレスへの生理的反応を調節する迷走神経の活動が低下することで不安を感じやすくなるのです。
また、心理的ストレスを感じると、テロメアに好影響を与える酵素「テロメラーゼ」の働きが弱まり、テロメアの消費が早く進行します。その結果、身体内で慢性炎症が生まれやすくなり、年齢を重ねるごとに病気になりやすい状態を作り出してしまうのです。
実際、これまでに発表されてきたいくつかの研究から、うつ病が海馬のテロメア短縮に関連している可能性も分かっており、たとえばストレスが多い環境に置かれたラットに海馬内のテロメラーゼと脳内ニューロンの新生が減少していることが確認された例があります。この研究では、ラットにうつ病が発症されやすくなったわけですが、逆にテロメラーゼが増えるとニューロン新生が増加し、うつ病の症状も抑えられたとされています。
* うつ病の人はテロメアが短いものの、免疫細胞の中のテロメラーゼはむしろ多くなると言われています。
それ以外の研究では、チャールズ・カーヴァー教授とマイケル・シャイア教授が開発した楽観性尺度(LOT-R)と呼ばれるテストがあり、この研究の結果では、テロメアの長さと悲観的な心理状態の間に相関性が認められています。楽観的な心理状態との相関性は確認されませんでしたが、全体としてストレスによる健康への影響は、ポジティブよりネガティブな思考の方が影響が強いことが判明した研究となりました。
しかし、心理的ストレスがテロメア短縮の速度に大きな影響を及ぼすことが事実とはいえ、ストレスそのものに害はなく、ストレスを受けた本人がどのように反応したかがテロメアの長さに影響を与えるようです。
たとえば、受けたストレスに対して強い不安を感じるほど、ホルモン上で強いストレス反応が起きたり炎症反応が起きたりしますが、一方で脅威と感じるよりも乗り越えるべき障害と捉えて奮起する場合は、チャレンジ反応が起こり心拍数が増え、血液にたくさんの酸素が取り込まれて心臓や脳など必要な場所にたくさんの血液が送られます。
そして、アドレナリンが増加し、副腎からは適量のコルチゾールが分泌され、血圧が増加して身体のエネルギーが増すのです。これら一連の反応は、運動した時に経験する強くて健全なストレス反応と同じです。
(参考文献: 細胞から若返る! テロメア・エフェクト / Elizabeth Blackburn, Elissa Epel, 森内 薫, 2017)
(参考文献: 老化はなぜ進むのか BLUE BACKS / 近藤 祥司, 2009)