テロメアの消耗の速度に影響する因子の一つに、心理的ストレスが大きく関係していることが様々な研究から判明しています。具体的には、チャールズカーヴァー教授とマイケルシャイア教授が開発した楽観性尺度(LOT-R)と呼ばれるテストなど、テロメアの長さと楽観・悲観の関連を検証した研究はこれまで2つの実験が行われており、どちらの研究からもテロメアの長さと悲観の間に相関性が認められています。
しかし、テロメアの長さと楽観との相関性はいまだ確認されておらず、こちらは精神的な健康に大きく関わっているだけで、ストレスによる健康への影響はネガティブな資質の方が予測因子として強力であるとされています。
また、強い不安を感じるほど、ホルモン上で強いストレス反応が起きたり炎症反応が起きたりすることが分かっており、とくに精神的・肉体的に多くを要求される介護や病気の子供の世話、さらにアメリカの大学の研究結果では、深刻なトラウマ、レイプ、虐待、家庭内暴力、長期的ないじめなどにより慢性的なストレスが何年も継続することで用量反応的にテロメアが縮小していくとされています。つまり、ストレスを受けた年月の長さとテロメアの長さには相関性が認められているということです。
そのため、仮に心理的ストレスを感じることが起こったとしても、ストレスを脅威と感じるより乗り越えるべき課題だととらえて、ストレスを受けていると感じない思考が非常に重要になり、実際にアメリカの有名大学が発表した調査結果では、親の介護や重労働があってもチャレンジ精神で困難を楽しもうとする被験者からは心拍数の増加が見られ、血液へ多くの酸素が取り込まれて心臓・脳など必要な場所にたくさんの血液が送られていたそうです。そして、それがアドレナリンの増加につながり、副腎からは適量のコルチゾールが分泌され、血圧が増加、身体のエネルギーが増すきっかけになったというのです。
現時点で分かっている範囲内での理想的な形としては、ネガティブな感情をポジティブにとらえて、チャレンジ精神を含めたエネルギーに変える思考法を持つことや、双方が混じり合う感情を上手にコントロールして共存させる臨機応変さを持つことの2点が大切で、これらが結果として心理的ストレスの負担を少なくし、テロメアに良い影響を及ぼしていきます。そして、とくに年齢を重ねた人の方が思考が柔軟になりやすく、そういう感情のコントロールが上手い人ほど健康寿命が長いことが結論付けられているようです。
加えて、強い目的意識を持って生きている人ほどストレス耐性が強く、心臓病のリスク低下や免疫細胞の機能向上に相関性が認められており、さらに誠実で几帳面、長期的な目標に向けて地道に努力できる人のテロメアが長いことも認められているので、これらの因子も長生きを語るうえで参考になるのではないでしょうか。
(参考文献: 細胞から若返る! テロメア・エフェクト / Elizabeth Blackburn, Elissa Epel, 森内 薫, 2017)
(参考文献: 老化はなぜ進むのか BLUE BACKS / 近藤 祥司, 2009)