Q.テロメアが長くなると、不老不死は実現できますか?
A.老化防止の要因になりうると言われますが、テロメアの人為的な伸長は細胞の突然変異につながる可能性があり、少なくとも不老不死は難しいと考えられています。
テロメアは体内の100兆個とも言われるそれぞれの細胞が備えている「電池式時計」のような存在で、テロメアが存在し続ける、つまり時計が動き続けているかぎり、細胞が一定期間ごとに分裂して新しくなるため、身体は健康状態を維持していくことができます。
しかし、電池を徐々に消耗していくことでテロメアは短くなっていき、同時にある地点で細胞分裂のサイクルと自己複製を停止するような合図が送られて、いつしか細胞分裂が止まってしまいます。そして、新しく生まれ変われない細胞は自然に老化していき、これが蓄積することで病気や疾患を誘発する炎症を生み出すのです。
この生み出された炎症が、最終的に病気、そして死に至る原因因子となるわけですが、テロメアによる不老不死を実現する上で考えなければならないことは、細胞の老化を防ぐこと、つまり細胞分裂の停止合図が送られないようにテロメアの長さを限界点前で維持し続けておくことであると考えられています。そして、そのテロメアの長さを一定ライン以上で維持し続けるために必要なものが、「テロメラーゼ」と呼ばれる酵素です。
しかし、現代の医療臨床研究では、約270種類の細胞の中で「生殖細胞」「ガン細胞」「幹細胞」の3つの細胞だけ失われたテロメアの部分が「テロメラーゼ」という酵素の働きで補充されることは判明しているものの、その他の細胞では「テロメラーゼ」が発現することなくテロメアの短縮が続くと言われており、たとえテロメラーゼを活性化させる合成化学物質が作られたとしても、すべての細胞のテロメアを伸ばすことはできないと考えられています。また、テロメラーゼにより通常の細胞がガン化することがある危険性も指摘されています。
* なお下記のように、人の身体には多くの細胞や染色体が存在しています。
●合計細胞数: 約37兆2000億個(これらの中の染色体1つ1つの末端にテロメアがある)
●細胞の種類: 約270種類(この中で生殖細胞、ガン細胞、幹細胞のみテロメラーゼが活性して出る)
●細胞分裂回数: 50~60回
●染色体数: 46本
さらにどれか1つの細胞でもテロメアの長さが限界点に達してしまうと、身体内の全細胞へ複製停止サインが送られてしまうと提唱する専門家もいることから、現在はテロメアの長さを維持し続けることで健康長寿は実現できるといっても、不老不死を実現することは不可能であるとする考えが有力なのです。むしろ、寿命が延びるというより、肌ツヤが良くなり生物学的に若返るといった方が良いのかもしれません。
ちなみに、テロメアの長さ以外に老化が促進される指標を表すものとしては、血液の状態と足の機能が大きくかかわっていると言われています。動物食や砂糖が多い食事などで血液がドロドロの状態が続くと、動脈硬化や糖尿病、高血圧、高脂血症などいくつかの生活習慣病を引き起こすことが知られており、一方で適度な運動をしない場合、足の機能が衰えて転びやすくなるなど、老化を促進することになると言われているので、この2つについても老化防止や長寿を考えるにあたって重要な因子になると思います。
(参考文献: 細胞から若返る!テロメア・エフェクト / Elizabeth Blackburn, Elissa Epel, 森内 薫, 2017)
(参考文献: 別冊日経サイエンス 人体の不思議 / 日経サイエンス編集部, 2018)
(参考文献: 老化はなぜ進むのか BLUE BACKS / 近藤 祥司, 2009)